文字サイズ

権利擁護

(1)自己決定

〇保佐開始申立事件・東京家庭裁判所審判平成15.9.4家庭裁判所月報564145頁(却下)

「保佐開始については、補助開始とは異なり、本人の同意が要件とはされていないものの、・・・法は本人の自己決定を尊重することを求めている。このことは、審理手続にも反映されるべきであり、手続の進行に当たっても可能な限り本人の意思を尊重する必要がある。」本人が精神分裂病(統合失調症)の治療中であったとしても、そのことから直ちに事理を弁識する能力が著しく不十分であるとまではいえず、本人が明確に拒否しているため判断能力について鑑定を行うことができないから、保佐を開始する要件が認められない。

〇補助開始申立却下審判に対する抗告事件・札幌高等裁判所決定平成13.5.30家庭裁判月報5311112頁(棄却)

補助の制度は、「本人以外の者による申立てにおいては、本人の同意があることを要するところ、本件では、事件本人が補助開始に同意していないことが明らかであるから、補助開始の要件を欠いている。このことは、仮に、事件本人の財産について抗告人が危惧するような事情が認められるとしても、結論を異にしない。したがって、抗告人が主張する事件本人の財産の管理に関する疑念・危惧について判断するまでもなく、本件補助開始の申立ては理由がない。」

 

(2)成年被後見人等と欠格事由

〇選挙権確認請求事件・東京地方裁判所判決平成25.3.14判例時報21783頁(認容)

「成年後見制度は、国際的潮流となっている高齢者、知的障害者及び精神障害者の自己決定の尊重、残存能力の活用及びノーマライゼーションという新しい理念に基づいて制度化されたものであるから、成年被後見人の選挙権の制限についても同制度の趣旨に則って考えられるべきところ、選挙権を行使するに足る判断能力を有する成年被後見人から選挙権を奪うことは、成年後見制度が設けられた上記の趣旨に反するものであり、また上記の新しい理念に基づいて各種改正を進めている内外の動向にも反するものである。」

(3)成年後見人等の選任に対する不服申立て

〇後見開始審判に対する即時抗告事件・広島高等裁判所岡山支部決定平成18.2.17家庭裁判月報59巻6号42頁(抗告棄却)

成年後見人選任の審判に対し即時抗告をすることができる旨の規定はない。家事審判規則27条1項は、民法7条に掲げる者は後見開始の審判に対し即時抗告をすることができる旨を規定しているが、その趣旨は、民法7条に掲げる者で後見開始の審判に不服のある者に即時抗告の権利を認めたものであり、これと同時になされた成年後見人選任の審判に対し即時抗告を認めたものではない。」

(4)成年後見人等の義務

預金返還請求事件・東京地方裁判所判決平成22.12.28旬刊金融法務事情1948119頁(主位的請求棄却・予備的請求一部認容・一部棄却)

「後見終了後における後見人の財産管理権は、民法654条に規定する緊急処分等に限定されるのであって(民法874条)、被後見人の遺産に預金債権が含まれる場合にも、後見人において、当該預金債権を現金化して被後見人の相続人に交付すべき一般的な義務や権限はないものと解するのが相当である。」

(5)家裁審判官等の義務違反

〇国家賠償請求控訴事件・広島高等裁判所平成24.2.20判例タイムズ1385号141頁(一部変更・一部控訴棄却)

家事審判官の成年後見人の選任や後見監督が被害を受けた被後見人との関係で国会賠償法1条1項の適用上違法となるのは、具体的事情の下において、家事審判官に与えられた権限が逸脱されて著しく合理性を欠くと認められる場合に限られるというべきである。そうすると、家事審判官の成年後見人の選任やその後見監督に何らかの不備があったというだけでは足りず、家事審判官が、その選任の際に、成年後見人が被後見人の財産を横領することを認識していたか、又は成年後見人が被後見人の財産を横領することを容易に認識し得たにもかかわらず、その者を成年後見人に選任したとか、成年後見人が横領行為を行っていることを容易に認識し得たにもかからわず、更なる被害の発生を防止しなかった場合などに限られる」

〇国家賠償請求事件・東京地方裁判所平成26.3.11判例タイムズ1412号182頁(棄却)

「家事審判官による成年後見人の監督について、職務上の義務違反があるとして国家賠償法上の損害賠償責任が肯定されるためには、争訟の裁判を行う場合と同様に、家事審判官が違法又は不法な目的をもって権限を行使し、又は家事審判官の権限の行使の方法が甚だしく不当であるなど、家事審判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いて権限を行為し又は行使しなかったと認め得るような特別の事情があることを必要とするものと解するのが相当である。

(6)成年後見人等の横領への親族相盗例の準用

〇業務上横領被告事件・最高裁判所第二小法廷判決平成24.10.9最高裁判所刑事判例集66巻10号981頁(上告棄却)

「家庭裁判所から選任された成年後見人の後見の事務は公的性格を有するものであって、成年被後見人のためにその財産を誠実に管理すべき法律上の義務を負っているのであるから、成年後見人が業務上占有する成年被後見人所有の財物を横領した場合、成年後見人と成年被後見人との間に刑法244条1項所定の親族関係があっても、同条項を準用して刑法上の処罰を免除することができないことはもとより、その量刑に当たりこの関係を酌むべき事情として考慮するのも相当ではない」。

(7)高齢者虐待

国家賠償請求事件・東京地方裁判所判決平成27.1.16判例時報227128頁(棄却)

「高齢者虐待防止法は、・・・事実確認や高齢者虐待対応協力者との協議をする場合又は一時保護措置を決定する場合に、市町村の職員に具体的にどのような義務があるのかについて規定するものではない。これは、高齢者の保護に向けた対応が、事柄の性質上、迅速かつ臨機応変に行われなければならず、また、その対応に当たっては、専門的知識を有する関係諸機関に属する者が多層的に連携する必要があることから・・・、個別具体的な義務を規定することは適当ではなく、当該事案の対応に当たる者のその事案に即した適切な措置に委ねることを相当とした趣旨と解される。・・・以上によれば、高齢者の虐待の防止及び高齢者の保護に向けた対応・措置については、これを担当する市町村の職員の合理的な裁量に委ねられており、その対応・措置が著しく不合理であって裁量の逸脱又は濫用と認められる場合に限り、国家賠償法上違法であると解するのが相当である。」

 

ページトップへ戻る