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2025.04.28NEWS視察報告(海外)

2024アメリカ海外調査報告書

関ふ佐子、西片和代、西森利樹、根本雄司、原田啓一郎、本間郁子、柳澤武

1.調査概要
(1)日程
2024年9月1日(月)~2024年9月12日(木) *各々が特定の期間に参加

(2)調査先

①Pilgrim Place(CCRC/高齢者コミュニティ)
②CANHR(California Advocates for Nursing Home Reform、高齢者施設の改革支援NPO・LA事務所)
③Bet Tzedek Legal Services(法律事務所、②内でヒアリング)
④CANHR(高齢者施設の改革支援NPO・バークレー事務所)
⑤Chaparral House(高齢者施設)
⑥Veterans Home of California – Yountville(CCRC/退役軍人の高齢者コミュニティ)
⑦Napa Long-term care Ombudsman(オンブズマン事務所)
⑧Community Health Napa Valley (ホスピス)

⑨University of Pittsburgh(ピッツバーグ大学)
⑩The Bristol, Inc.(高齢住民が協同運営するマンション)

(3)調査項目と方法
各施設でのヒアリング調査や情報交換、高齢者法をテーマとする学術交流、施設に滞在して暮らしぶりを実体験する。

(4)調査先の選定理由
アメリカには様々なCCRC(Continuing Care Retirement Community/継続介護型退職者コミュニティ)があるところ、個人的に最も日本の研究者や実務家に紹介したかったCCRCがPilgrim Placeである。というのも、Pilgrim Placeは、居住している高齢者間での助け合いが大変盛んであり、地域共生社会を目指す日本が参考にしうる、コミュニティの理想的な姿を実現しているところだからである。
CANHRは、弁護士を中心メンバーとすることで、施設に居住する高齢者の権利を擁護してきたNPOである。そこでの実務家の活躍の姿を共有したく、また、コロナ禍で侵害されてきた高齢者の権利を保障するためのアメリカの模索の実態を探るべく訪問した。ロサンゼルス事務所では事務局長のMaura M. Gibneyさん、バークレー事務所では、設立者のPatricia L. McGinnisさんなどとお会いした。
Bet Tzedek Legal Servicesは、弁護士が、裕福ではない高齢者のために信託を組成するなど、その財産管理に関わっている事務所であり訪問した。
アメリカは、退役軍人に対する保障が手厚い国である。そうしたなか、Veterans Home of California – Yountvilleは、退役軍人のためのコミュニティとして、最も大きくかつ現在残っている最も古い施設であり訪問した。アメリカの高齢者施設の神髄や理想像の模索や苦難の歴史を調査した。
Chaparral Houseは、Pilgrim PlaceやVeterans HomeといったCCRCとは別に、独立したナーシングホームを見学したく、CANHRから評判の良い施設として推薦を受け訪問した。さらに、高齢者の終末期を支えるホスピスや、高齢者施設の質を高めるためにアメリカで活躍しているオンブズマンの役割を調査したく、Community Health Napa ValleyとNapa Long-term care Ombudsmanを訪問した。
後半のピッツバーグは、高齢者法の大家であるLawrence A. Frolik教授のお話を伺うことを第一の目的に訪問した。同時に、ピッツバーグ大学での高齢者法クリニックの実践をMartha M. Mannix教授から伺うとともに、高齢者法の弁護士Carol Sikov Gross氏のお話を伺った。前半の西海岸の調査が高齢者ケアの実態を探るものであったのに対して、後半は高齢者法の理論や教育について探る調査となった。(関)

2.レポート
(1)Pilgrim Place
https://www.pilgrimplace.org/

施設の概要:100年以上の歴史を持つCCRC。元々は引退した宣教師のために設立され、最初は2軒の家から始まったが、現在は一区画の町を形成している(下記の地図参照)。
入居時には居住者との面接もあり、現在では、「JUSTICE・PEACE・CARE OF THE EARTH」といったコミュニティの理念に共感する人々が入居している。    
我々は、この施設(①)に4泊し、ここを拠点としつつ②を訪問した(③を含む)。


ケアが必要な高齢者が居住するPitzer Lodgeにおける居住者13名(男性4名、女性9名)との懇談会では、日本に住んだことのある人が多くいて、親しみを感じる言葉があり心が和んだ。「ここでの生活に満足しているか」の質問に対し、居住者が主体となって運営をするとの考えの下、2カ月に1回運営会議を開催しており、だれでもが意見や考え方を言うことができ、意見は代表が経営者へ提案することもある。それゆえ「ここには多くのアクティブティがあり、選択肢が多くあって充実しエンジョイしている。」「安心感がある。」「スタッフが良い。」との声があった。

他日の入居者有志による意見交換では、私からの質問「日本は高齢化率が28%を超えていている。単身世帯も増えている状況にあるが、意思確認ができる遺言書などを書いている人は少ない。日本の高齢者にアドバイスできることはありますか?」に対して、自分の意思を伝える文書など書いていないと、周りの人が困るし、子供だって困ることになる。責任として書くべきだと思う」との意見があった。
ホームの理念「正義・平和・地球への配慮に尽力する、活気に満ちた包括的なシニアコミュニティの育成」に共感し協力・活動できる人が入居していることもあり、多様な生き方、経験をした人たちが多彩な活動を積極的に主催しており、新たなつながりが生まれ、新たな自分に出会えるチャンスが多くあった。これを今後、Uビジョン研究所の活動に活かしていきたい。

看護付きナーシングホーム(Health Service Center/病院から退院した人、ターミナル期の人など)は、62人が人生最期まで安心して暮らせる体制を整えている。


Memory Care(Rauch House/認知症ケアホーム)の利用者は12名と少ない。スタッフは5名。夜勤は専従の人で3シフト制。管理者は看護師。個室と2人部屋。方針は「子ども扱いしない」「尊厳をもって接する」「落ち着いた感じで話す」。モンテッソーリの研修(高齢者版:認定プレートが掲示)を受けている。お互いの支え合いで可能な限り暮らし続けることを目標に限界の範囲を広く捉えていることによるものだと感じた。(本間)

上記について、経営陣からのインタビューで質問したところ、モンテッソーリ精神に基づいた認知症ケアを導入したのは①高齢者向けのモンテッソーリがある、②個性を尊重し自主性を重んじる点は子供と共通である(子供の頃の記憶の喚起)、③特に軽度の認知症に対する有効性、④スタッフに対するモンテッソーリ技法の教育という側面もある、とのことであった。(柳澤)

最終日に開催された経営陣であるCEOや管理者との情報交換では、施設設立の沿革や社会のニーズ、時代とともに変革してきた運営の経緯を聞くことができた。日本の高齢者施設は管理的な傾向があり、今後の日本人のライフスタイルに合った暮らし方を考える良い機会となった。(本間)

施設の人材確保について、Webでの募集や、民間の人材会社(日本でも有名なIndeed)経由で募集するが、飲食業と人材の取り合いになっている。とりわけ資格が必要な看護師が不足しており、看護助手、介護職員は、比較的足りている。その上で、職業能力の訓練費用を支給したり、休暇や企業年金といった福利厚生を充実させたり、最も高いところと比べても80%の賃金水準を確保するなど、工夫をしている。多様性の確保について、あくまで資格で採用することから、労働者の多様性は自ら生まれるが、居住者とスタッフで採用の際にインクルージョンを検討する。労働者の勤続年数が長いので、働きやすい施設といえるのではないか。 


従業員に対する教育について、全員がハラスメント研修を入所時と1年に1度受けることになっている。居住者から労働者、外部の労働者から居住者、居住者同士など、全ての関係についてのハラスメントを防止する。ハラスメントにまで至らない、いじめ(bulling)についても、州では集中トレーニングを義務付けている。労働組合は存在しないが、E-mailのやり取り、管理職とミーティング、一斉発信システム、個人的な会話など、様々な方法で労使対話を行っているとのことである。(柳澤)



(2)CANHR ロスアンゼルス事務所https://canhr.org/


1983年に設立。社会福祉士を養成し、弁護士を雇用して高齢者に関する相談と支援、政策提言の活動を行う。趣旨「消費者とその家族に知識と支援を提供し、自分たちの懸念事項を表明する勇気を与える」「自分たちを擁護することができない人々の代弁者になる」「虐待の発生を許している法律を変える」を明示している。州のメディケイト(Medi-Cal)制度が変わったことで、関連する相談が増えた。①高齢者・障害者に対する在宅介護支援が増えてきた。②高齢者施設の入居者が減少してきた。新型コロナ感染の拡大により、施設での死亡者が増えたことによる。(本間)


 
 (3)Bet Tzedek Legal Serviceshttps://bettzedek.org/

Bet Tzedekは、LAにある法律事務所で、1974年に設立されたNGOである。年間支出は約1700万ドル規模(1$150円で約25億円)で、弁護士によるプロボノ活動に法科大学院生などのボランティアも加わって、「低所得者向け」の「無償」の法的サービスを幅広く提供している。
 虐待被害から逃れるための支援や、医療や介護に関する公的給付を受けるための支援などの高齢者保護プログラムの中でも、2023年に開始されたばかりの「エステートプランニング・プログラム」について、2人の弁護士から話を聞いた。

エステートプランニングと言うと富裕層の遺産承継や節税計画をイメージするが、ここでは、低所得者にとって死活問題である「公的給付を受ける資格を維持しつつ、自宅不動産を次世代に承継する」ことを目的とした、シンプルな撤回可能信託が活用されている。LAでは、自宅の価値は1億円に上ることが多いそうだが、それだけの資産価値のある自宅を保有する人でも低所得者であり、無償でなければ弁護士にアクセスできず、医療や介護にかかる費用によって家を失ってコミュニティを維持できなくなる。深刻なLAの社会状況を反映したサービスと言えるが、信託が、富裕層だけでなく低所得者層にも活用されている実情は、日本における信託の活用にも参考になる(西片)


(4)CANHR バークレー事務所
1983年設立。日本で2012年10月26日にUビジョン研究所主催で「日米の高齢者施設における人権擁護の現状」をテーマにシンポジウムを開催した。設立者のPatricia L McGinnisさんと弁護士Prescott Coleさんが来日した。

設立趣旨にあるように市民の意識を高めるための研修を数多く開催しており、政策提言することで変わったこともある。また、ソーシャルワーカー向けの研修や行政監査でナーシングホームのお金の使い方をチェックする方法について会計士を講師に研修することもあるという。さらに、市民がナーシングホームから不当な退所をさせられないために利用者が知っておくべき知識をパンフレットにして市民を支援するなどの活動を行っている。
ナーシングホームは守るべき基準はあるが、監査が行き届かないのと、違反しても罰金額が少ないため効果がないと指摘された。職員数を減らしたりして利益を上げることなども散見されるという。職員の配置を守らずに運営者が収益を上げていることもあると話していた。
日本でも、運営基準が守られず、また、主な運営主体である社会福祉法人の不祥事も少なくないことから、同様の課題があることが分かった。活動内容で特に、正しい知識(自分の与えれた権利)を市民がもつことで、ナーシングホームも変わるという活動の方法を知って、日本でもこのような活動は必要と感じた。(本間)


アメリカでも新型コロナウィルスの発症当初は、高齢者(長期ケア)施設における高齢者と家族などとの面会が制限されていた。これを可能とするように政府に働きかけ、コロナ蔓延1年後には家族などによる面会を可能としたのが、CANHRを中心としたNPOである。その後、将来の公衆衛生上の危機における面会権の保障に備えて、CANHRなどのNPOに加えて政府も参加するLong-Term Care Facility Access Policy Workgroup(長期ケア施設アクセス政策ワークグループ)が組織された。このワークグループが、高齢者施設における、面会に限らないパンデミック時の最適な政策と実践について具体的に定める法、「居住者が指定した支援者の法」AB2075の制定を2023年10月5日に提言した。AB2075は、Alvarez議員により2024年2月にカリフォルニア州議会に提案され、法の名前を「居住者のアクセス確保法」とする修正などが加えられたが、8月15日に審議保留となっている。
CANHRでは、面会について中心になって運動してきたTony Chicotel弁護士に、これまでの経緯を伺うとともに、AB2075の審議がなぜ難航したか、どのような点が論点となったのかを伺った。パンデミック時のつながりの重要性といった法案の目的は合意されつつも、面会を可能とする者の人数や時間帯など、安全の確保と居住者の権利を具体的に確保する方法についての合意形成は、カリフォルニア州においても難航していることが分かった。詳しくは、拙稿「高齢者と家族の面会 ─新型コロナウイルスと終末期の現実─」横浜法学33巻2号(2025年)353頁〈https://ynu.repo.nii.ac.jp/records/2001526〉参照。(関)


(5)Chaparral Househttps://www.chaparralhouse.org/

施設の概要:CANHR バークレー事務所から徒歩圏内にある、NPOによる比較的小規模な(入居者定員約50人、うち個室12室)高齢者施設。まだバークレーに高齢者施設が少なかった1978年に、当時の市長により設立された。今でもバークレーでは唯一のNPOによる看護サービス付高齢者施設(ナーシングホーム)である。看護師と看護助手は24時間在住しており、カウンター内で入居者のモニタリングを行っている。

大きい公園(Strawberry Creek Park Playground)に隣接しており、施設内にも中庭のテラスや庭園があるなど、自然環境は豊かである。施設長の話では、高い認証評価を得ているとのこと。ここではSEIU(Service Employees International Union)によって労働組合が組織化されており、組合掲示板も設置されていた。ただ、掲示板の内容が更新されておらず、どれだけ実質的に活動しているのかは把握できなかった。

なお、居住者には日本生まれの方がいて、娘さんが近隣に住んでいるので、こちらの施設で暮らしている。ただ、アメリカ生活が長いとはいえ、日本と日本語が使える環境が恋しいとのことであった。(柳澤)

Chaparral Houseは、施設そのものは古いものの自宅のような環境を作ることを心がけており、緑が多いなか、談笑する高齢者の姿が見られる施設だった。スタッフのトレーニングやケアの質について受賞しており、施設長に、評判が良いと聞いたと伝えたところ、「良い評価はいただくが、もっと修正できることはある」とおっしゃっていた点が印象に残った。オンブズマンに来てもらうなど、外からの目も重視していた。なお、長期入所の方と短期の方がおり、短期の入所者を増やすことで体制の安定化といった課題を改善しようと検討されていた。(関)

(6)Yountville Veterans Home


ヨントビル退役軍人ホームは、ワインで世界的に有名なナパ・ヴァレーに位置するヨントビルにある退役軍人のための高齢者住宅などが集まる退役軍人の居住コミュニティである。このホームは1884年に設立された最も歴史のある退役軍人ホームで、現在では、キャンパスと呼ばれる全米最大の広大な敷地内(東京ドーム約53個分)に約600人の退役軍人(55歳以上)とその配偶者が暮らしている。

敷地内には、自立型住宅、ケア付き住宅、ナーシングホーム、認知症ケアセンター、クリニックのほか、食堂、スーパー、ゴルフコース、野球場、フィットネスセンター、ボーリング場、図書館、郵便局、墓地などがあり、ひとつのコミュニティを形成している。建物間の移動はゴルフカーやシニアカー、自転車を利用している。


訪問時には、認知症や外傷性脳損傷のある人を含む高齢者や障害のある退役軍人にケアを提供する新しいナーシングホームを建設している最中であった。各地で在宅ケアが充実してきたこともあり、近年では、元気なうちにこのホームに移り住む人は減少傾向にあり、ある程度ケアが必要になった段階での居住希望者が増えてきているようである。(原田)



(7)Napa Long-term care Ombudsmanhttps://napaombudsman.org/
ナパ・介護オンブズマン事務所は、ナパの介護施設における介護オンブズマン活動の拠点であり、現在8人の州認定のオンブズマンがスタッフとして在籍している。この事務所は、カリフォルニア州により設置されたものであり、財政面では州政府から資金を受けているが、その組織や職員、活動は州政府から独立している。

この事務所では、施設巡回、施設入居者のアドボカシー、苦情相談、施設職員・入居家族への研修などを行っている。施設巡回は、法律では3か月に1度の定期巡回とされているが、ここではより頻繁に、ナーシングホームは毎週、ケア付き住宅には月に1度、オンブズマンであるスタッフが訪問し、居住者や施設とコミュニケーションをとりながら、介護の質、生活の質、入居者の権利の侵害を監視している。電話やメールなどで寄せられる苦情内容は、施設設備、室温等の居住環境、食事、同室の人への苦情など様々である。


こうした内容をオンブズマンが1件ごとに精査し、利用者と施設との間に立って苦情の解決を図っている。その過程で高齢者虐待が疑われる場合には、虐待窓口につなぐことも行っている。この他、居住者による自治組織の集会にオンブズマンが参加し、住民自身が施設に対する苦情を訴えるための支援も行っている。近年では、ナーシングホームにおけるメディケイド利用者の退所トラブルが目立つとのことであった。(原田)

(8)Community Health Napa Valleyhttps://communityhealthnapavalley.org/
施設の概要:二つの病院は45年前からあり、Napaで唯一のNPOホスピスとして、地域全体をカバーしている。様々なフォローを実現するため、看護師、社会福祉士、牧師、ホスピス補助の介護士、ボランティア、医師、と連携する。ホスピスハウスは持っておらず訪問のみという形態をとっている。訪問先は、介護施設と個人宅が半々ぐらいで、余命6ヶ月が基準。

アメリカでも自宅で看取ることができることを周知する必要があり、緩和ケアは将来の選択肢を示すものとなる。患者が医者を選ぶことができるが、ホスピスの経験豊かな医者を選ぶ点がポイント。緩和ケアで何が重要かは患者次第であり、たとえば精神的な問題から痛みが来ている場合などもある。事前の意思表示がなく、かつ、意思表示が難しい場合は、家族の意向でも判断する。営利団体のホスピスでは、労働環境が悪く不正もあるのではと話していた。
資金集めは、貧困層が利用できるように、あるいは、末期で痩せた人のための服などメディケアで賄えない部分に充当する。Napaは小さなコミュニティで寄付を募りやすい。

労働者には各種の休暇があり、燃え尽き症候群にならないよう気をつけている。ここで9年間マネージャーを務めているキャサリン曰く、労働組合はないが、労働条件について個別の話し合いを行い、この方式を労働者も好んでいるとのこと。不適格な看護師にはコーチングを行うが、それでも改善しなければ自主的に辞めてもらって解雇はしていない(これまで3人)。(柳澤)
 


(9)University of Pittsburghhttps://www.pitt.edu/


ピッツバーグ大学では、Lawrence A. Frolikピッツバーグ大学名誉教授(高齢者法)及びMartha M. Mannixピッツバーグ大学教授(高齢者法クリニック)、さらに、高齢者法の弁護士であるCarol Sikov Gross氏からそれぞれお話を伺った。

ペンシルベニア州の高齢者法実務において、高齢者法の役割としては、メディケイドプランニング、住宅・介護に関するアレンジメント、ソーシャルワーカー等との連携、高齢者の財産管理身上保護全般に対するコンサルティング(司令塔)、エステートプランニング(信託等の活用)があり、高齢者法が対象とする範囲として、その他には、主に公的年金、Guardianship、Power of Attorneyなどが挙げられる。その中で、高齢者法実務の課題として、弁護士業務の細分化(特にメディケイド以外を行わない、Guardianshipなど裁判業務を敬遠する弁護士の増加)、住宅・介護問題への非対応、エステートプランニングに特化しやすい傾向にあるという点が指摘された。


また、ピッツバーグ大学の高齢者法クリニックは、学生が1セメスターで、後見申立て1件、エステートプラニング3~4件を扱うことになっており、学生のリクルートや資金調達(寄付・補助金等)が課題であることが明らかにされた。(根本)

同大学ではLLMプログラムを担当するRonald A. Brand先生にもお話を伺った。1995年、本組織を立ち上げた。アメリカ人の学生と一緒に学ぶ科目が多く、留学生は刺激を受ける。


15-25人程度のクラスが多く、留学生の出身地は多様(西ヨーロッパ、中東、発展途上国からも)。現在のLLM学生は14人で、日本からの留学生はいないが、過去にはいたことがある。年額費用42,000ドル。他大学は10万ドルに達する。リーマンショックにより3年間のJDに通う学生が240人から140人まで減った、これは全米の傾向と一致している。「司法試験に合格するためではなく法律家のように考えるために教えている」とのこと。(柳澤)

調査チームは、高齢者法の世界的権威であるFrolik先生から、高齢者法の歴史、現在の課題、将来の展望などについて、2日に渡ってお話を伺うとともに意見交換した。Frolik先生は、Elder Lawのケースブック(教科書)を第7版に更新されたため、改正の主たる意図を伺った。第7版は、サブタイトルの変更にも表れているように、高齢者法にかかわる各種の具体的な問題を記載した点が大きな変更点とのことだった。Frolik先生は2018年にPittsburgh大学を引退され、コロナでお会いできていなかったなか、研究から遠のかれるのかが気になっていた。ケースブックの第7版への更新を機会にお会いでき、お話を伺えたところ、高齢者法の研究への意欲は今も高かった。例えば、認知症の高齢者と精神障害者とではどう異なるのか、高齢者の特徴は何なのかという高齢者法の根幹にかかわる課題について、熱く議論することができた。これからも、Frolik先生との共同研究が可能ということがわかった点が、今回の研究調査の大きな収穫であった。
Frolik先生とともにお話を伺ったCarol Sikov Gross弁護士の属するSikov and Love法律事務所は、歴代のご家族が高齢者法を専門としており、ピッツバーグ大学の高齢者法クリニックはその寄付からSikov Elder Law Clinicとの名前がついている。高齢者法は幅広い分野を対象とする法分野であり、その一部を専門とする弁護士はいるものの、高齢者法全般を担当できる法律事務所は少ないという現場の課題についてお話を伺った。(関)


(10)The Bristol, Inc.
施設の概要:ピッツバーグ大学の学びの聖堂から徒歩5分ほどのところに位置する、住民の協同組合によって設立された高齢者協同住宅(owner-occupied cooperative residential community)であり、住民自らコミュニティを作り上げている。ただ、法改正が行われたことから、現在ではかかる所有形態のマンションは実現できないとのこと。

子育て世代であった頃は近隣の邸宅に居住していたものの、高齢期になりThe Bristol に住み替えた住民もいる。総戸数は56であり、間取りの種類は6タイプである。1階には訪問した家族等向けのゲストルームもある。今回、同所に居住され、関先生と親交が深いDonnorummo夫妻のご厚意により、柳澤と西森は、ゲストルームへ泊めていただいた。


屋上パティオには、ソファーやテーブルが置かれ、バーベキューグリルも設置されている。利用は予約制となっており、それらを利用しつつ夕食をすることもできる。調査チームのなかで一足先に現地入りした西森は、Donnorummo夫妻と夕食をご一緒させていただき、高齢期の繋がり作りや住まいのあり方、わさび醤油の美味しさ等についてお話をした。
 アメリカ最終日の夕食は、Donnorummo夫妻、Frolik夫妻とともに、屋上パティオにて夕食をご一緒しつつ様々な話題について話に花が咲いた。


そのほか、The Bristolでは、定期的に住民同士の交流会が行われており、カードや、麻雀などがされている。屋上パティオの入口付近には、ゲーム等の予定がホワイトボードに記入されていた。「手書きがよい」そうである。また、夕食後に住民各自が飲み物と食べ物を持参して集まり、夏の夜風に吹かれながら車座になって歓談をしていた。

高齢期には、社会参加や他者との交流の機会が減少する傾向があり、社会的孤立も課題となるなか、The Bristolでは、住民相互の交流が活発になされており、家族ぐるみの繋がりづくりがなされているのが印象的であった。(西森)

謝辞:本研究調査は、日本学術振興会科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金)20KK0022・国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B)、代表・関ふ佐子)の助成により実施した。

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