2017.05.12視察報告(海外)
ドイツ調査報告 (神奈川県立保健福祉大学 講師 川久保寛 2016)
1.はじめに
本稿は、高齢者法の中心に位置するともいわれる介護保険法を考察するために、2016年に行ったドイツ調査を報告するものである。周知のように、ドイツは、日本に先駆けて介護保険制度を運用する国であり、法施行後20年たった今でもなお、比較対象として重要な位置づけを持つ国である。
また、この調査は、高齢者法研究会とは別の研究会である日独社会福祉制度研究会(科研基盤B「ドイツ若者就労支援の研究 -成長過程に即した包活的支援と最低生活保障の視点から」、研究代表・木下秀雄大阪市立大学教授)によるドイツ調査の一環として行い、研究会メンバーおよび通訳にも同席している。調査の仲介および通訳をしてくださったことに感謝したい。
2.調査概要
(1)日時・場所
2016年8月22日午後3時から午後6時まで、AOK nordost(ベルリン)で行った。
AOKは一般地区疾病金庫(Allgemeine Ortskrankenkasse)であり、疾病保険の保険者であるとともに、介護保険の保険者(介護金庫)である。日本とは異なり、ドイツでは疾病保険の保険者が介護保険の保険者を兼ねることになっており、AOKはドイツで最大の保険者である。今回、ベルリンを管轄するAOKnordostにヒアリングを申し込み、本部庁舎で調査を行った(写真参照)。むろん、疾病保険と介護保険の運用にあたって、財政上分離されており、担当者も一応区別されている。AOK nordostでは、全職員約5,000人中およそ500人が介護保険を担当している。一方、下記に述べる介護支援拠点等の現場では、両方事務処理することもある。
(2)介護支援拠点の位置づけと機能
今回、主に介護支援拠点について調査を行った。介護支援拠点(Pflegepünkte)は、2008年改正によって創設された新たな制度であり、日本における地域支援包括支援センターとの類似が指摘されている。しかし、地域支援包括支援センターは、介護保険の保険者である市町村が(直接行うか委託するかは別として)設置する機関であり、あくまで保険者機能の一環を担うのに対して、介護支援拠点は、保険者の連合が設置する機関であり、保険者機能との責任分担があいまいである。そこで、実態を調査することとした。
まず、介護支援拠点は任意設置であるとのことであった。そもそも、法律上、介護支援拠点を置くことが“できる”と規定されており、介護支援拠点を設置するかどうかは州によって異なる。ベルリン州では設置することとしている。
介護支援拠点は、介護制度のナビゲーターとして機能を持つ。具体的には、2008年改正で行うとされた介護相談を行っている。配置はおおよそ人口9万人あたり1か所であり、それぞれ2.5人分のポストを置いている。実施主体は、それぞれの介護金庫およびベルリン州政府である。現在、ベルリン州全体で合計34か所となっている。ベルリン州では、パリテに委託する拠点と、(ベルリン州が独自に運営していた)かつての高齢者支援所を転用した拠点がある。
なお、これらの介護支援拠点と、介護金庫が設置するサービスセンターの業務は一部重複する。
3.残された課題と新たな疑問
この調査によって、一定程度実態を把握することができたが、いまだ解明されていない部分も多い。
第一に、介護支援拠点は相談援助を行うが、サービスセンターの活動と重複している点である。施行時から存在するサービスセンターの実態はいまだ不明であり、新たに設置された介護支援拠点を創設した意味が改めて問われるよう。
第二に、2008年改正で、被保険者ごとに作成されるようになった介護支援計画の実態である。保険給付・ボランティア介護・家族介護の組み合わせを行うことができるため、どのように活用されるのか、理解する必要がある。
以上。